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識者の見聞録(研究理事)

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リーダーが技術を理解するということ

YUTAKA MATSUO

2023.10.02

東京大学
松尾 豊

 

先日、岸田総理が松尾研究室に来ていただいた。公表されている通りだが、夏休みを利用し、約3時間の講義を受け、大規模言語モデルの「事前学習」を実際にやっていただいた[1]。プログラムの基礎からはじめ、わずか3時間でそこまでいくのは講座の作りとしても大変なのだが、コロナ前にはさまざまな業界のリーダーの方を招いて、そうした講義を行っていたこともあり、時間内に終えることができた。最後に精度を競うコンペティションを行うのだが、総理は、6名の参加者中、上位に入賞された。大変な激務のなか、技術以外に多くのことに気を遣わないとならない立場で、また66歳という年齢を考えても、大変素晴らしいことだと思う。おそらく、生成AIのGPUを使った本格的な事前学習をやったことのある首相は、世界中で岸田総理だけなのではないか。国のトップに生成AIを実際に触って体験いただいたという価値は、象徴的な意味でも大きいと思う。「まずい、総理がここまで勉強しているなら、私も勉強しなければ」という声を何人もから聞いた。ぜひ、経営者、政治家、行政、メディアの方々など、多くのリーダー層に、総理と同じくらい、あるいは総理以上に、生成AIを実践的に勉強していただきたい。

トップが新しい技術を積極的に勉強する、触れるということを、多くの企業、組織で実践すれば、その下で働く人も新しいことをずっとやりやすくなる。日本では、技術の詳細は上司より部下が詳しくて当たり前だと思われているから、部下へのプレッシャーもかかる。これまでの日本では、デジタルやAI等の新しい技術に関しては、「上司への説明コスト」が高すぎた。簡単なこともなかなか理解してくれない。上司が重要性を理解するころには、すでに他社も海外もとっくにやっている。組織のリーダーがしっかりと技術を勉強する時間をとること、そして、若い人、技術の先端にいるひとの話を聞いて、彼らに活躍してもらえるようにすること。これをしっかりやっていけば、日本の企業でも、伝統的な産業でも、必ず新しいイノベーションを起こすことができると信じている。

梓総研は、まさにこうしたイノベーションを起こすような組織の条件が整っている。リーダーが技術を理解する姿勢を見せ、若い人がモチベートされて活躍する。自由な雰囲気で、チャレンジを推奨する。こうした姿を梓総研が見せることが、梓設計全体にもとても良い影響を与えていくだろう。我々も微力ながらご協力させていただいているが、ぜひ大きな成果につながることを楽しみにしたい。

 

[1] 厳密には、すでに学習済みの事前学習のモデルに、追加データを使って行う「継続事前学習」というもの。

 

matsuo

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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